解説

 

『唐山大地震』

 2018年11月12日(月) 前半上映

 2018年12月16日(日) 後半上映

     日中友好協会湘南支部 映画鑑賞会

 

原題『唐山大地震』

2010年・唐山広播電視傳媒・中国電影集団・華誼兄弟傳媒

監督:馮小剛(ファン・シャオガン)

脚本:蘇小衛(スー・シャオウェイ)

李元妮(リー・ユェンニー) : 徐帆(シュイ・ファン) : 方登(ファン・ドン) : 張静初(チャン・チンチュー) : 方達(ファン・ダー) : 李晨(リー・チェ)

上映時間:135分

 

[あらすじ]

 1976年7月28日深夜。中国河北省唐山市。貧しいながらも幸せな生活を送っていた四人家族をマグニチュード7.5の大地震が襲った。父親は家に取り残された二人の子供を助けようとするが、建物の倒壊に巻き込まれ命を落としてしまう。

 母親は子供たちが助けを求めて泣き叫ぶのを聞きながら何もできない。何人かの男たちが助けてくれようとするが、双子の姉弟を救うには上にのしかかっている梁をどかすしかない。一人を助けようと梁を動かせば、もう一人がその下敷になってつぶれてしまう。救出は一刻を争う。男たちは母親に決断を迫る。「息子を助けるか、それとも娘を助けるか」と。「息子を…」と力なく答えて泣き崩れる母親。その声は瓦礫の下の娘の耳にも届いていた。

 母親が弟を抱きかかえて立ち去った後、死体置き場で息を吹き返した姉は、その後震災孤児として子供のいない軍人夫婦に引き取られ大事に育てられる。

 それから32年経った2008年。唐山から遠く離れた四川省の少数民族居住地域を巨大な地震が襲った。全中国から大勢の支援ボランティアが駆け付けた。唐山大地震の被災者だった弟もその中にいた。休息の合間に別のボランティア女性の身の上話を耳にした。どうやらその女性こそ亡くなったはずの姉に違いないことが分かった・・・。

 

[解説]

 この映画は1976年7月の唐山大地震と2008年5月に起きた四川大地震をモチーフにしているが、原作は張翎(ジャン・リン)という女性作家の中編小説『余震』が元になったフィクションである。

 1976年7月28日に起きた唐山大地震では死者数60万人とも言われたが、この映画では24万2769人が死去したとある。この中には日本の日立製作所から派遣された技術者2名と関連商社員1名が含まれていた。また四川地震では、死者が6万9227人、行方不明者が1万7923人となっている。行方不明者が多かったのは山崩れの下敷きになってしまったことによる。

 

 映画は2つの地震の激烈さを描いていることから、一部のメディアでこの映画を「恐怖映画」の範疇に入れている。だが地震のシーンは特殊撮影により迫力はあるが、それほど長くはない。

 またこの映画について、母に見放され心に傷を負った少女と罪悪感を背負って生きる母親の32年間を描いたものとして、最後の母親と娘の奇蹟的な再会にスポットをあて感動物語として紹介しているものもあるが、果たしてそうだろうか。

 むしろ近所の男性から言い寄られるが、亡き夫への思慕からそれを断固として拒絶する母親、医者になるため猛勉強をして医大に入学するも大学院生との恋愛の挙句シングルマザーになった姉、地震で片腕を失ったが仕事に成功して金持ちになり家庭ではすっかり亭主関白になった弟。地震によってどん底に突き落とされた母、姉、弟の3人のその後の生き方を丁寧に描くことによって重厚な物語になっている。

 

 地震の2年後から中国では改革・開放が始まった。生活レベルや人々の価値観など世の中が大きく変わっていった時代である。テレサ・テンの「小城故事」などの曲が効果的に使われているが、中国の観衆はこのようなメロディーを聞きながら、自らが過ごしてきた歳月と重ね合わせてこの物語に共感を寄せているように思える。

 再会の喜びについては過剰な描写を省いている。これはシナリオ自体がそのように抑制されて書かれているからだろう。

 

 この映画は2010年に公開されて、史上最大のヒットとなった。日本でも2011年3月26日に公開される予定だった。しかし同年3月11日に発生した東日本大震災によって延期され2015年3月に公開された。

 ちなみに唐山大地震が発生した1976年は、1月に建国以来首相を務め、国民から慕われていた周恩来が死去した。4月の清明節にその死を悼む民衆のデモとそれを抑える政府による衝突(第一次天安門事件)が発生。7月には朱徳(毛沢東とともに抗日戦争を戦った八路軍総司令)が、9月には毛沢東が死去した。さらに10月には文化大革命を推進してきたいわゆる〝4人組〟が逮捕されるなど大乱の年であった。

 

 監督の馮小剛は、現在、中国でもっとも人気のある監督。これまで多くの作品を手掛けていずれもヒットさせている。2008年公開の北海道を舞台にした『非誠勿扰』(邦訳名:狙った恋の落とし方)は大ヒットし、その後の中国人の北海道旅行ブームに火を付けたと言われる。

 この映画で母親役を演じた徐帆(シュイ・ファン)は彼の妻である。また大人になった息子役を演じた李晨(リー・チェ)は昨年9月に范冰冰(ファン・ビンビン)と婚約して話題をまいた。脱税を疑われて失踪騒動を起こし10月に微博を更新して謝罪した女優である。

(岡崎雄兒)  

 

参考資料:現代中国映画上映会会報2018.5.12「唐山大地震」(清水裕司)