2018年8月13日(月) 日中友好協会湘南支部 映画鑑賞会

 

終戦記念戦記シリーズ『激動・日中戦史秘録』

企画・制作:テレキャス・ジャパン

発売:(株)パナマントビデオ

上映時間 46分

ケースに<解説>として次のように記載されている。 阿片戦争に始まり、日米欧の列強が大陸を攻める! 中国は四分五裂のなかで孫文・毛沢東らによって統一の礎を築き始める。激動秘録

1972年の日中国交正常化前後に作られたものか。欧米などのニュース映画などから編集したと思われる。第2次上海事変(1937年)の戦闘の様子や延安における生産運動など貴重なフィルムが含まれている。  

 

 本フィルムのタイトルは『激動・日中戦史秘録』となっている。しかし内容的にはアヘン戦争の時代から中華人民共和国の成立まで100年以上の歴史が扱われている。

 1840年のアヘン戦争はなぜ起こったのか。その敗戦によって不平等条約の締結を余儀なくされた清国はどうなったのか?その昔、中学校の歴史教科書で勉強したことをなぞることになる。しかし活字でなく画像なので分かりやすい。

 アヘン戦争のあとは、義和団事件。映画にもなった「北京の55日」の攻防、このあたりは実写フィルムなので迫力がある。やがて孫文が登場する。辛亥革命(1911年)、翌年の中華民国の建国、対華21か条要求と五四運動(1919年)、孫文による国民党の成立(1919年)、中国共産党の成立(1921年)、第一次国共合作(1924年)、北伐開始(1926年)、蒋介石の反共クーデーター(1927年)と映像は駆け足で、それぞれ短い説明で進む。

 1929年の世界恐慌から日本の山東出兵、このあたりから日本の存在が次第にクローズアップされてくる。1928年の某満州国重大事件、すなわち張作霖爆殺事件から1931年の満州事変へ。翌1932年の満州国建国、リットン調査団の現地調査、そして根拠地の江西省・瑞金を放棄せざるを得なくなった紅軍が1934年から1936年にかけて国民党軍と交戦しながら、1万2500kmを徒歩で移動した長征。ナレーションは、出発時の9万人が延安にたどり着いた時には2万人になっていたと語っている。

 そして1937年7月7日の盧溝橋事件、同12月の西安事変。南京攻略、南京入城。南京では極東軍事裁判で取り上げた数字として日本軍による虐殺で30万人が死亡、 (市内だけで4万人)の数字をあげている。さらに重慶爆撃、ノモンハン事件と続き、遂に日本は太平洋戦争に突入する。米英の援助を得て元気を取り戻す重慶の蒋介石。日中戦争の局面は大きく変わり、日本の敗色が次第に濃くなってゆく。そしてカイロ宣言。

 毛沢東らの籠った延安の様子も映し出される。「銃を発射する人間の教育を重視せねばならない」とする毛沢東。農耕に力を注ぐ指導者、兵士たちが映し出される。 日本の敗戦。歴史上の人物が孫文を除いて壮年時代の蒋介石、張学良、毛沢東、周恩来などが出てくるのも興味深い。

 

 なおこのフィルムにも出てくる第二次上海事変中の1937年8月28日に日本軍に爆撃された「上海南駅の赤ん坊」(写真右参照)に触れておきたい。この写真は『ライフ』誌の1937年10月4日号に「1億3600万人が見た海外の写真」として掲載されアメリカの世論に大きな影響を与えた。一方で演出写真ではないかとの疑惑が出されるなど論争にもなっている。

 また冒頭で中国の人口について8億という数字をあげているが、これがいつの時点か説明されていない。ちなみに中国の人口はアヘン戦争当時4億1000万人、1949年の建国時5億4000万人で近代の約100年で1億3000万人増加したに過ぎない。ところが建国後は増加が著しく1981年に10億の大台を突破している。それ故8億という数字はこのフィルムが制作された(1972年頃)の数字を言っていると思われる。

 

 以上、73年目の敗戦記念日を前に中国の近現代史をざっと振り返り日中戦争の実態を知ることができる貴重な記録映画と言える。なお最後の部分、中華人民共和国建国後に歌われている軽快なテンポの歌は「万歳毛主席」という毛沢東を称えた曲。実際は建国直後の歌ではなく1967年に作曲されたもの。単純なリズムの繰り返しだが聴いていて飽きが来ない印象に残る曲である。

(岡崎雄兒)   

≪参考図書≫

 このテーマに沿った参考図書として書店での購入や図書館で閲覧しやすいのは、石川禎浩『革命とナショナリズム 』(岩波新書・シリーズ中国近現代史B・2010年)と臼井勝美『新版日中戦争』(中公新書・2000年)である。

 日中戦争に特化したものであれば昨年刊行された笠原十九司『日中戦争全史』(大月書店)が詳しい。また軍事や政治の動きとは別に「国民はこの戦争にどう反応したのか?」「あの戦争は何だったのか?」に焦点を当てたものとして最近文庫になった井上寿一『日中戦争―前線と銃後』(講談社学術文庫・2018年)がある。